やがて君になる 園村菜月についての妄言

お久しぶりです。

昨年に引き続き、今年もやがて君になる Advent Calender 2021に参加させて頂く事にしました。

今年も『やがて君になる』の登場人物について「こうなんかじゃないか」「こうだと面白いんじゃないか」等という妄言を書き連ねていこうと思います。

これを読んでいる人は大丈夫だと思いますが、ネタバレ全開を前提に書いていこうと思うので、もし私の妄言にお付き合いいただけるなら『やが君』全巻を読んでからにする事をお勧めします。

 

今回考えるのは、「園村菜月について」です。

 

園村菜月は小糸侑、叶こよみ、日向朱里の中学時代からの友人で、侑とは同じソフトボール部で汗(や涙)を流した仲です。

黒髪ショートカットで活発でサバサバした印象のスポーツ少女です。

ソフトボールを続ける為に侑たちとは違う高校に進学したという事もあり出番が少なく、2巻の幕間の『深読み書店』には登場せず、コミックス3巻の表紙裏の背の順表に載っておらず、5巻の表紙裏の「学校周辺とってもざっくりマップ」にも家が載っておらず、アニメの円盤の特典の声優さんインタビューもありません。あと、舞台版は未見なのですが、個別にキャストは割り振られていないので出演なし、もしくは良くてアンサンブルの誰かが演じる、位の感じなのでしょう。

正直なところ、立ち位置がおいしい割には不完全燃焼というか、もっと見せ場があっても良かったのではないか、と少しだけモヤモヤを感じざるを得ない、というのが個人的な感想です。

そして、私がごくごく個人的に『やが君』において「そうだけどさ、そうかもしれないけどさぁ…!」と納得のいっていない展開が一つあります。

 

修学旅行での沙弥香の漫画誌に残る完璧な告白を燈子が断る。

 

これに関して、「この告白を振る?!」と読み返すたびに思います。燈子が水鳥を見て侑を連想さえしなければ、

「私も沙弥香が好き。付き合おう」

とまではならないまでも、

「今は……自分の気持ちが分からないの。(でも、沙弥香にはそばにいて欲しい、離れてしまうのは辛い。)もう少しだけ、時間が欲しい。それじゃ……だめかな?」

くらいの感じで消極的に一歩前進して、お試し恋人ルートに突入しても良かったのではないでしょうか。

おそらくその後、年末の燈子の舞台を沙弥香が観に行ったり、クリスマス、初詣、バレンタインあたりを無難に過ごして、つかず離れずゆっくりと距離を縮めていこうとお互いに(主に沙弥香が)頑張るのだと思います。

ですが、2月19日の燈子の誕生日(バレンタインから日がそんなに空いていないので、ホワイトデーとかでも良いかもしれません)で少し良い雰囲気になった勢いで沙弥香がうっかり距離感を誤ってキスとかしようとしてしまい、燈子はそれを受け入れられずに気まずい雰囲気になります。

そして燈子と沙弥香が3年になって次代への引き継ぎが終わった生徒会役員としての最終日、沙弥香から

「(やっぱり私では駄目だって分かったの。)あなたはもう……自分の気持ちが分かっているでしょう?さようなら」

といった具合で別れ話(完全に付き合っている訳ではありませんが)を切り出す。場所は、生徒会室裏のベンチでしょうね。

こんな感じのエピソードを挟んで貰えるのなら、後の細かい進行は40話の感じで粛々と進行してくれて構いません。

沙弥香はとても素晴らしい子なので、(主に顔が)大好きな燈子との間に少し踏み込んだ甘い(そしてほろ苦い、それでも振り返ってみれば良い)思い出を作ってあげたいのと、大団円を迎えたあたりでは、軽く侑に「燈子の元カノ面」が出来る感じにしてあげたいのです。

 

そして、その世界線において私が菜月に期待したいのは、39話の槙君の役割です。

もっと正確には、燈子とすれ違って傷心の侑に寄り添い、燈子への思いを諦めきれない事を実感させる役です。

ひと言で言ってしまえば、矢沢あい先生の『天使なんかじゃない』の中川ケンです。

例えばこんな感じで。

傷心の侑がひとりバッティングセンターで憂さを晴らしていたら菜月とばったり再会。

「侑……お前どうかしたのか?」

「……別に、どうもしてないよ?」

「そんな魂が抜けた様な顔して、ガタガタのフォームで……どうもしてない訳ないだろ!」

「…!」

「……まぁ無理に話せとは言わないけどさ」

といった具合に。

そして、菜月と良い時期まで過ごして、

「やっぱりわたしが好きなのは…七海先輩なんだ」

と再確認をする感じのエピソードを挟んで欲しかった訳です。まぁ『天ない』の焼き直しというか、恋愛漫画のある意味ベタな展開ではありますが、こういうのが一つ入るくらいのテンポだと個人的には落ち着くかな、と。

そして、これにより本編では侑の背中を勢いで押してしまった槙君も、「舞台に干渉しない観客」のポジションを堅持する事が出来ます。

ここで考えたくなるのが、

 

菜月は侑に恋愛感情を持っていたのか?

 

これでしょうね。

現時点では、「その可能性も無い訳ではないけれど…どうもそんな事はあまり無さそうだなぁ」というのが結論です。

菜月に一番スポットライトが当たるのはコミックス19話(アニメ10話)、朝にランニングをする侑が犬の散歩中の菜月と出会い、会話の流れでそれぞれの夏合宿に備えて一緒に買い物へ行くエピソードでしょう。

そして、買い物が終わった後に寄った喫茶店で、侑が「いかに燈子が勝手で、それに自分が振り回されているか」を愚痴るのを見た菜月が、

「なんか変わったなぁ」

「一回ぐらいおまえがいっぱいいっぱいになってるところ見たかったんだ」

などと笑みをこぼしながら言って、

「それ(侑をいっぱいいっぱいにしたもの)がソフトじゃなかったのはちょっと悔しいけど」

と、物憂げな表情で心の中で思うシーンでしょう。

結構うかつに朱里を恋愛ネタでつついて場の空気を微妙にしたり、「侑、決めるの遅い」とズバッとダメ出しする菜月が、唯一言葉を飲み込むシーンでもあります。

多くのやが君ファンは、ここから菜月の巨大感情を妄想する訳です。

このシーンを根拠として妄想を膨らませ、菜月は侑に恋愛感情を多分に抱いているという仮説に基づいて妄想をするならば、さきに私が提示した「沙弥香の告白からの消極的進展ルート」のバッティングセンターでひと段落した後で、

「私が見たかったのは、そんな侑じゃない」

「…ダメだな。これだけは絶対に言わないでおこうと思ってたのに…」

「私ならお前にそんな顔させたりしない!」

みたいな感じで菜月がひた隠しにしていた気持ちを打ち明け、抱きつくなりキスを奪ったりして、それに「いいか、もう…」モードになっている侑がズルズルと甘えてしまう。

そして、紆余曲折を経て、

「やっぱり菜月じゃダメでした」

「悔しいなあ」

こういう事になるでしょう。

でも、これでは燈子と沙弥香が辿る(存在しない)ルートとそう変わらないものになってしまいますし、侑と菜月の関係が清算されるタイミングを、良い感じに燈子と沙弥香が別れるタイミングと合わなければいけません。

菜月に侑への恋愛感情を持たせるのは、あまり味の良い手ではなさそうです。

 

ここで余談。菜月はどこのポジションだったのか。

私はピッチャーだったと考える事にしました。

コミックス4巻19話を読む限り、侑が背番号4(セカンド)なので、相棒感を出すならショート(背番号6)がベストだとは思うのですが、背番号6(8と12も)を付けた選手が既に存在しており、あえなく断念せざるを得ませんでした。

そして、中学のソフトボール部では主将がポジションを問わず背番号10を付ける事が多いらしいので、「それなら菜月は背番号10で、主将でショートならどうだろう」という線を考えてみました。

が、今度はアニメの10話を見てみると、同じシーンに背番号5、8、10、12の選手がいるんです。菜月は主将でもありませんでした。

という訳で、原作でもアニメでも矛盾しない様にする為には、菜月=ショート説は断念せざるを得ませんでした。

という訳で、「それならもう菜月はピッチャー(背番号1)でいこうじゃないか」とあいなりました。強気のピッチングでチームを鼓舞するエース、実にそれっぽいです。

そして、菜月のポジションの投手にする事で出来る事があります。

ケガによる投手断念からの、野手への転向エピソードです。

こうする事で、侑と菜月の恋愛ではなく、菜月が投手断念から野手転向を目指すリハビリ、猛特訓に付き合い、菜月が見事レギュラー復帰する過程を経て、「苦しくても諦められない、諦めたくない」みたいな方向から侑が燈子への思いを再確認するルートの構築が可能となります。これなら比較的エピソードを切り上げるタイミングが取り易そうですし、気分転換の為には身体を動かすタイプの侑にはうってつけのリハビリだと思います。

実際、コミックス8巻180ページで、侑と菜月がストラックアウトで遊んでいるシーンでは、右利きのはずの菜月(コミックス4巻19話での、ECHOでのケーキの食べ方を参照)が左で投げています。「現役ソフト部だから、ハンデとして左で投げてる」でも通りそうですが、「ケガで右では投げられない」も通ると思います。

 

さらに余談。

ソフトボール部があるから」という理由で進学先を選んだ菜月ですが、「菜月ってどこの球団のファンだろう?」などと考えてみました。

これは「菜月が」というよりは、「仲谷先生が」になりますが、埼玉西武ライオンズファン説を緩めに推そうと思います。ごくごく個人的な話をさせてもらうならば、読売ジャイアンツファンであって欲しいですが。

「主人公が(それもデビュー作の)以前やっていたスポーツを何にするか?」を考える際に、全く思い入れの無いスポーツを持ってくる事は少し考えにくい気がします。

団体スポーツならバスケットボール、バレーボール、競技人口は少ないけれど女子サッカーあたりでも良い訳で、菜月は「スポーツ強豪校に行く為に遠見東高校を選ばなかった」でも良い訳です。

ちなみに、このサイトによると、首都圏でも関西圏でも「ソフトボール部のある高校」は約三割から四割、女子高に関して言えば、約五割ほどみたいです。「どの高校にもまずある大メジャーな部活では無いけれど、ある所にはまぁあるので、そっちに行く」くらいの感じで、進学先が分かれる理由付けにするには実に丁度良いスポーツだとは思います。

少なくとも仲谷先生は、贔屓のスポーツがソフトボール(野球)であると言っても過言では無いのではないでしょうか。「野球とソフトボールを一緒にするな」というお叱りがあるかもしれませんが、そこは勘弁して下さい。

この美しい沙弥香のピッチングフォームを見て下さい。

野球への強い思い入れを感じ…ても良いと思います。

本当なら「これは涌井(秀章。元ライオンズの中心的な投手で、現在は楽天イーグルスに所属)のピッチングフォームだ!」等と断言出来れば良かったのですが、残念ながらこの一枚ではそこまでには至りませんでした。

39話の侑と槙君がバッティングセンターに行くシーンでの二人のバッティングフォームとかからも、有識者が頑張れば何か拾えそうな気はします。

そして、wikiによると仲谷先生は滋賀県出身です。

少し調べてみたところ、滋賀県西武グループの創設者である堤康次郎の出身地であり、西武グループ発祥の地なのです。

その影響で滋賀県を走る近江鉄道(NR遠見駅の元ネタであるJR彦根駅に隣接する形で、彦根駅もある様です)は西武グループに属していたり、皇子山球場ではライオンズのゲームが開催されたり、滋賀県のローカルTV局であるびわ湖放送BBC)では、テレビ埼玉が制作したライオンズ主催試合の中継番組『TVSライオンズアワー』が放送されていたりします。

そして仲谷先生は、連載開始時には埼玉県在住なんです。

ライオンズの本拠地であるメットライフドームへのアクセスが良さそうですし、テレビ埼玉ではさきに触れた『TVSライオンズアワー』に加えて、ライオンズの情報番組である『LIONS CHANNEL』が放送されています。

更に何か無いかと探していたら、槙君と山川穂高選手(ライオンズの中心的な内野手。2018年と2019年のパリーグ本塁打王)の誕生日が同じ(11月23日)、なんていう事も判明したので、念のため書いておきます。まぁこれはさすがに偶然でしょうが、もし仲谷先生がライオンズファンだったとしたら、密かな遊びとしてこの位のネタを仕込むのは楽しいだろうな、とは思います。

そして、詳細は省略しますが、やがて君になる』の聖地は『西武』池袋線沿線が多いんです。

仲谷先生から獅子魂を感じるのは考え過ぎかもしれませんが、これらを踏まえると仲谷先生と、『やがて君になる』と「西武」は切っても切り離せない何かを感じてもバチは当たらないと思います。

 

いい加減話を戻します。

私がなぜ菜月は侑に恋愛感情を抱いていない、と考えるか。

まず、侑と菜月の距離感というか、コミュニケーションの頻度です。

四人で買い物に行った後で侑と菜月が会うのは夏合宿前、それも約束をしたからではなく、侑が燈子へのモヤモヤを払拭する為にランニングしていたら、偶然犬の散歩中だった菜月にばったり遭遇したからです。

そして、そこで近況報告で「今度生徒会で劇をやる」と言っています。生徒会で劇をやる話が最初に出たのはコミックス2巻6ページを見る限り5月初旬、侑と燈子が図書室で中間試験に向けて一緒に勉強をしたのが恐らく5月26日(図書室の本を借りられる期間を一週間として、コミックス2巻82ページの2コマ目で本の返却日が6月2日とあるので)、そこから10話で侑が生徒会劇を手伝う事を完全に承諾したのは中間試験明け(おそらく6月初旬)です。

つまり、侑と菜月は四人で遊びに行ってから夏合宿に向けて買い物するまでの間、どう少なく見積もっても2か月弱連絡をとっていない訳です。

メールはしているけど生徒会の話題が出ていない可能性もありますが、1巻124ページで侑が菜月に「菜月なかなかメール返してくれないんだもん」と言っているので、いずれにせよメールの頻度はそう多くなさそうです。もっと言えば、この感じだと菜月から侑へメールはほぼ期待出来ないのではないでしょうか。

この感じから、菜月の侑への感情の巨大さを感じる事はやや難しい気がします。

 

次に、コミックス4巻64ページの、侑の姉である怜のリアクションです。

怜は以前燈子が家に来た際に様子を見て、燈子の侑へのただならぬ感情にピンと来ています。まぁこれは燈子が分かりやす過ぎるというのもありますが。

しかし、合宿前に侑が一緒に買い物に行った相手が菜月だと聞くと、「なーんだ、つまらん」と一言。

怜は菜月の存在を認識している様子ですし、おそらく菜月は今までに侑の家に遊びに行った事もあるのだと思います。

もっと言えば、3巻56ページの怜のモノローグの「(優柔不断な侑を)引っ張りまわしてくれる人がいるといいんだけど…」の『引っ張りまわしてくれる人』の前例は、菜月の事だったのではないでしょうか。

怜の観察眼をあまり信用し過ぎるのも危ういところがありますが、もし菜月が侑にそういう感情を向けていたら、「面白くなってきたな、こりゃ」とまではいかないまでも、「これは厄介な事になりそうだぞ…」くらいはモノローグで言っても良さそうなものです。

 

そして、菜月はおそらく高校在学中に、遠見東の文化祭に遊びに来ていません。

というのは、もし45話の高校卒業後の文化祭以前に遊びに来ていたら、どこかで菜月と槙君とは面通しが済んでいそうなものです。

(大好きな)侑が出演していて、こよみが脚本を書いた舞台なら、菜月は絶対に観に来たいはずです。それは一年生の時のみならず、おそらく侑たちが二年生の時の生徒会劇でも侑は出演しているし、こよみが脚本を書いている可能性は高いはずです。

更には、「朱里が気になってるらしい堂島って奴」も見に行ける訳ですし。

まぁこれに関しては、「自分の高校の文化祭と日程が被っていたから」と言われてしまえばそれまでですが。

 

侑と菜月だけを見て二人の関係性を妄想するのはしんどいので、ここからは侑、菜月、朱里、こよみの友人関係を見ていく事にします。

 

コミックス4話(アニメ3話)の四人で遊ぶエピソード。

きっかけは朱里からのお誘いです。コミックスでは文面までは分かりませんが、アニメ版だと

「今度の休み空いてる?」

「菜月とこよみも来るから遊ばない?」

という文面です。

ちなみに、朱里のアイコンはハンバーグです。お店で撮ったものか、自作なのかは分かりませんが、キャラが出ています。とてもかわいい。

はい、ここ。

重要なのは、朱里が侑に連絡した時点で、菜月とこよみの参加が決まっているという事です。

まず朱里、菜月、こよみの参加が確定している上で、侑が追加招集されているんです。

仲良し四人組とはいえ、人間関係の濃淡はどうしても発生してしまうものです。

それは燈子、沙弥香、愛果、みどりの二年生の仲良し四人組でも、どうしても燈子と沙弥香、そして愛果とみどりに分かれる様に。

そして、『やがて君になる 佐伯沙弥香について(3)』にある様に、時間の経過と共に沙弥香は愛果よりもみどりについ連絡してしまう様に。

では、この集まりの言い出しっぺは誰なのでしょうか?

遊ぶ約束の言い出しっぺなら、十中八九菜月か朱里だと思います。

もし菜月が侑に巨大感情を抱いていたとしたら、菜月がまず侑を遊びに誘い、「朱里やこよみも誘っといて」とか、もっと言えば菜月が侑、朱里、こよみにお誘いを一斉送信でも良さそうなものです。でも、菜月から侑にメールは来ていません。

なので、朱里が大垣先輩にフラれて凹んで、「別にこれで終わりじゃないんだ」と自分に言い聞かせて心の整理を済ませ、次の休みは誰かとパーっと遊びに行って気分転換しよう、という流れなんかが有力だとは思います。

具体的に妄想するならば、

朱里がこよみと一緒に下校して、どちらかの家で「今度の休みとか遊びに行きたいねー」的な事をまったりと話している時に、タイミング良く菜月から

「今度の休み遊ぼうぜ」

と連絡が来て、

「いいね!今こよみと一緒だけど行くって言ってる。あ、侑も誘おうよ」

「任せた」

といった流れでしょうか。

つまり、少し寂しいですが、いずれのケースでも菜月にとって「遊びたい!」となった時に最初に連絡するのは侑ではなさそう、という事です。

 

そして、侑は一人遅れてショッピングモールに到着しています。

四人とも同じ中学だった訳で、菜月は少しだけ怪しいですが(犬の散歩ルートから妄想するに、おそらくマップにギリギリ載らない、北西部の川沿いあたりといった所でしょうか)、全員近所に住んでいる訳ですから、駅なりバス停なりに集合して、四人で一緒にショッピングモールに行けば良くないですか?

そして侑は「遅くなってごめん」的な発言をしていないので、集合時刻には間に合っているし、一人遅れて到着する事は全員了承済みと考えて良さそうです。

ここまでを踏まえて、「侑だけ四人の中で友人関係の絆が薄め」と判断してしまうのはあまりにも寂しいので、ゴールデンウィーク直前で品出しする本がどっさり来たので、それだけは手伝ってから来た」あたりに落ち着けようと思います。

そして、侑と菜月の再会からの両手握手

ウマ娘だったら因子継承(ウマ娘を育成する際に、任意のウマ娘二人のステータスやスキルを次代に引き継ぐ儀式的行為)が出来てしまいそうな、なかなかにしっかりとしたやつです。ページを跨いで余韻が残っていますし

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参考画像。髪や身長差のニュアンスが侑と菜月に少し似ているウイニングチケット(左)とナリタタイシン(右)による因子継承。いわゆるチケタイ

「菜月ひさしぶりー」

とは言いますが、中学の卒業式は概ね3月中旬から下旬に行われるので、一ヶ月経ったか経たないか位でしょう。一ヶ月程度、例えば夏休みの間まるまる合わない程度の期間を開けて再会した時に、あのクールな侑からあそこまでがっちりと因子継承両手握手をする。

つまり、菜月から侑への感情よりも、侑から菜月への感情の方がどちらかと言うと大きかったのではないでしょうか。

まぁ、「高校生にとって一ヶ月は長いし、侑は遊ぶ前に朝からひと仕事終えてから来たので、解放感から少しテンションが上がっていた」あたりも侑には乗っていたのかもしれませんが。

侑、菜月、朱里、こよみは仲良し四人組。

でも、二人ずつに分けるなら侑と菜月、朱里とこよみに分かれがちで、菜月は侑の(便宜上)相棒なのにも関わらず、それと同等(もしくはそれ以上)に朱里とも相当に仲が良い。

 

この侑、菜月、朱里の絶妙な友情の濃度の関係は一体どういう事なのか。

 

ここで、5巻カバー裏の「学校周辺とってもざっくりマップ」を見てみましょう。

これによると、侑と朱里(こよみもですが)の家の距離がとても近いんです。

この距離ならおそらく幼稚園や小学校が一緒でしょうし、子供会や町内会でも交流がありそうなものですし、小学生の時は集団登校で一緒に通っている、とかすらありそうです。もちろん、中学入学以前に朱里が藤代書店で買い物(おそらくマンガ)をする事もあるでしょう。

侑と朱里は家の距離感と性格を踏まえるならば、中学以前に友人関係になっている、何なら一番の幼なじみになっていてもおかしくないのではないでしょうか?

 

そこで、そのあたりをダイナミックに解決する為に、「侑は中学校入学のタイミングで現住所に引っ越してきた」という説を推してみようと思います。

ここで「中学の時に引っ越してきたのは侑ではなく朱里」説も浮かびましたが、手に負えなくなりそうなのでここでは考えない事にします。まぁそうだとしても、本が大好きで近所に住んでいるこよみと中学入学まで親交を深めていないのはやや不自然、という疑問は依然残りますし。

きっかけは、侑の祖父の逝去でどうでしょう。

祖父の逝去で藤代書店の存続が危うくなり、祖母一人で店を切り盛りしながら暮らすのは厳しいだろう、そして、侑の祖母も「体が動く限りは、出来るだけ長くお爺さんが遺してくれた本屋を続けたい」という意志もあったりして、侑の母(円盤2巻のディスクガイドによると本名小糸涼子。藤代書店の看板娘。実家である藤代書店の三階に少なくとも侑と怜の部屋があるので、一人娘という事は無いのかもしれない。しっかりしてそうなのと女系家族の雰囲気があるので、もしかしたら妹とかいたりして。ちなみに、夫である侑の父は本名小糸徹二。温厚そうで、名前からして次男である事が有力なので、小糸母(藤代家)にとっては色んな意味で理想的な男性だったのかもしれない)がひと肌脱いで祖母と同居、藤代書店の手伝いをする事に決めた、といった感じ。

最初に「侑がどこかから引っ越してきたのではないか?」と考えたのは、侑が時おり使う少し独特な疑問文(「○○です?」と、いった具合に「か」を抜く表現)がどこかの方言なのではないか、と思ったのがきっかけです。

ただ、ざっと調べた感じでは、あくまでくだけた口語表現であり、どこかの地方の方言である、という情報は見つかりませんでした。

そして、アニメ6話によると怜は侑の5歳上の大学3年生で、コミックス33話によると怜が彼氏のヒロ君(円盤3巻のディスクガイドによると本名大塚紘。怜とは高校のころからの恋人同士。わりとモテる)にケーキを作るのは5回目らしいです。

なので、「怜が引っ越しがあっても転校せずに済む範囲内(同じ市内やせいぜい隣の市とかで、小学校の学区は違う、くらいの感じ)に住んでいた」という事で。

という訳で、侑は知り合いゼロの状態で中学校に入学します。

そこで同じクラスになって、初めて声をかけてきたのが菜月です。

「お前どこ小?あぁ、中学から引っ越してきたのか」

「なぁ、ソフト部入らないか?友達作るならスポーツで同じチームになって、一緒に汗をかくのが一番だよ」

「頼むよー。ソフト部に一緒に入ってくれそうな人いないんだよー。絶対楽しいからさー…(朱里はバスケ部希望で、こよみはおそらく帰宅部か文化系の部活)」

といったやや強引めな勧誘を経て侑はソフトボール部に入部。そして、菜月の言う通りソフト部で友人が出来るし、朱里やこよみとも仲良くなっていった、と。

これなら侑が菜月にがっちりと因子継承両手握手をするのも頷けます。

 

なので、中学時代の菜月が侑の事をどう考えていたのかをざっくりと言うと、

「友達になったタイミングは朱里やこよみより遅いけど、三年間同じ部活で汗を流した事もあるし、一番の友達って言っても良い感じ。基本的にクールで頼りになるけど、間違いなく私の事めっちゃ好き(恋愛感情ではなく)だよなぁ。真面目で押しに弱いというか、流されやすいところがあるからそこは少し危ういかも。多分私が誘ったら同じ高校に来てくれそうな程に…。それは弱みにつけ込むみたい、とまでは言わないけれど、少し違うよな」

といった具合だったのではないでしょうか。

それが別々の高校に進学してしばらくして会ってみたら、侑の口から出るのは「七海先輩が~」ばかりな訳です。

そして、4巻19話のECHOでのシーンの菜月の心境は、

「侑は私の事をめっちゃ好きだから、別々の高校になったらどうなるか少し不安だったけど、朱里やこよみもいるし、まぁ大丈夫そうだな。それにしても…『七海先輩』って人の事を好き過ぎじゃないか?高校に入ってまだ半年も経ってないのに。私は三年間一緒にいたのに、こんなにいっぱいいっぱいな侑は初めて見た。私も結構強引にソフト部に誘ったり、初心者の侑に結構ムチャな事を言ったりしてたはずなのに。侑が楽しくやってるのは嬉しいし、新しい面が見られたのはちょっと面白いけど、私の事が大好きだった侑がどんどん変わっていくみたいで少し寂しいというか……悔しいな」

こんなところでいかがでしょうか。

という訳で、

 

菜月が侑へ向けていたのは、中学三年間を一緒に過ごして育んだ友情と、頼れる友人であるという信頼と、自分が侑にとっての一番の友人であるという自負。そして、それが変わっていく事に対する喜びと、僅かな寂しさと、そして嫉妬。

 

このあたりを結論にしたいと思います。

 

とりあえず菜月が侑に向けている感情の正体を、自分なりに納得のいく感じに整理する事が出来たので、ここでひと段落です。

これで終わりにしても良いのですが、せっかくなので考えるだけ考えた、かなり尖った仮説も書ける範囲で披露しておきます。それは、

 

実は菜月は恋愛対象として朱里を狙っていた説です。

 

まずは、四人で遊ぶシーン。さきに書いた通り、菜月は遊びに誘うとしたら、まずは朱里なんです。

そして、恋愛モノの映画を観る訳ですが、アニメ版を見るに、「いま、君に愛してると」という、月刊コミック電撃〇〇(おそらくは「王子」)に連載されている漫画の劇場版だと考えられます。ポスターの下部にキャストの名前が載っているので、アニメ作品ではなく、実写版でしょう。

菜月は月刊の少年マンガ(女性向けだったら「電撃王女」とでもなりそうなので)を読むんですね。とても、らしいと思います。

ただ、漫画をあまり読まなそうなこよみですら「原作読んでるけど映画もわりと」と比較的高評価をしているのが少し意外でした。まぁ小説→漫画化→映画化とメディア展開していった大ヒット作品なのかもしれません。

ここで気になったのが、映画を観ようとする時って、事前に時間を調べませんか?

菜月が「あの映画が観たい」となって、映画館の前に着くまでどの映画が観たいのかを伏せていたのはなぜか。

おさらいすると、この集いの流れとしては、

服屋→ゲームセンター→映画→アイス

という具合になっています。

という訳で、本当は菜月が朱里と二人で映画を観たかったけれど、四人で行く事になったので優先順位が下がってしまった、そして提案しづらくなってしまったというのはどうでしょう。

なので、ゲームセンターと映画の間に昼食が入り、そこで

「少し遊び足りないけど、この後どうする?」

「あ、そう言えば菜月、映画観たいって言ったよね?」

「あー…まぁ別にどっちでも良いっちゃ良いんだけど」

「じゃあ時間調べて、丁度良かったら観ようか」

みたいな感じになったのではないでしょうか。

 

そして、四人で遊んだ時もそうですが、コミックス43話で四人がこよみの小説新人賞をファミレスで祝う時も、菜月は朱里の恋愛事情に突っ込んでいます。こよみのお祝いなのに。

侑と二人で買い物に行った時には言葉を飲み込んだのに、朱里の事になると我慢が効かない様子です。

そして、菜月はテーブルを挟んで身を乗り出し、朱里の両肩を掴んで揺すっています。

侑にもしていない激しめのボディータッチを、朱里にはしている訳です。

 

さて、だいぶ根拠が荒れて弱くなってきましたが、勢いと思いつきだけでそもそも論を一つ。

キャラクターを生成する際に、「主人公の友人のスポーツ少女」を二人用意する訳ですから、菜月と朱里はキャラクターの差別化が必要になってきます。

それを一番端的に表しているのが名前です。

園村菜「月」と「日」向朱里。

そう、月(Moon)と太陽(Sun)です。

対になっています。

叶『こよみ』がいるんだから、月(Month)と日(Day)じゃないの?ですって?聞こえません。

情熱的で、叩けば恋愛ネタがポロポロ出てくる朱里。

そんな朱里の対にするのであれば、菜月は「冷静で、自分の恋愛ネタは決して提供せず、心にずっと秘め続ける」という事になります。

そう考えると、45話で堂島君と幸せそうにしている朱里を冷やかしながら、心では泣いているのかも知れません。

菜月のそんな姿に、『島耕作シリーズ』の樫村健三(島耕作の大学からの友人で、会社も同期入社。同期の中でのエース格。島と、後に島の最初の妻となる岩田怜子との飲み会をセッティングしたり、島のピンチを機転を利かせて救ったりするクレバーな良き友人。だが、のちに実は同性愛者である事が判明し、樫村は樫村で結婚して家族を持った後もなお島への巨大感情を振り切る事が出来ず、酒の勢いでカミングアウト。最後はフィリピン駐在中にテロリストに襲撃され、島の腕の中で息を引き取る)を見ました。

せめて、菜月と朱里の間で生き死にがどうこうといった悲劇的なイベントは起こらないで欲しいものです。

…さすがに少し話が飛躍し過ぎました。申し訳ありません。

 

最後にもう一つだけ。

百聞は一見にしかずというか、ここで観て欲しいのが、アニメ3話で四人が軽く近況報告をしながらエスカレーターに乗っているシーンです。

コミックスでは侑と菜月、朱里とこよみという分かれ方になっているのですが、アニメでは一番上のエスカレーターに侑、次に菜月と朱里、そして一番後ろにこよみ、という並びになっているんです。

そこで、

菜月「(朱里は)バスケだろ、知ってるよ」

朱里「言わせろよ」

ここです。

ここで朱里が菜月の頭に軽めのツッコミとしてチョップをするんですが、ここをコマ送りにして観て下さい。

菜月がものすごく満足げな、作中で一番可愛い顔をしています。

画面のキャプチャーはやり方がよく分かりませんし、色々と引っかかったり怒られたりすると困るので、ここではしません。

ぜひ購入して確認してみて下さい。

 

観ましたか?

1巻だけじゃ物足りないですよね?

4巻まで出ているので全部買って、全部観ましょう。

 

全部観ましたか?

はい、そうなんです。

誠に残念ですが、アニメの1期はコミックス5巻の途中で終わっているんです。物語はここからが盛り上がりどころですし、映像化されていない菜月の出番はこれ以降もまだまだあります。何なら追加エピソードが欲しいくらいです。

連載終了から二年以上経っていますし、仲谷先生は新連載『神さまがまちガえる』を始めてしまっていますが、それでも『やがて君になる』はまだ終わっていないのです。

もう少しだけ『やが君』を応援しながら、アニメ2期の、そして舞台『やがて君になる』encoreの報せを待ちましょう。

 

これでようやく気が済みました。

最後の最後になりますが、この長い妄言にお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

読んでいただいた方に、何か一つでも「この考えは面白い」「これは気付かなかった」等と、気付きや得るものがあれば幸いです。

お疲れさまでした。