やがて君になる 園村菜月についての妄言

お久しぶりです。

昨年に引き続き、今年もやがて君になる Advent Calender 2021に参加させて頂く事にしました。

今年も『やがて君になる』の登場人物について「こうなんかじゃないか」「こうだと面白いんじゃないか」等という妄言を書き連ねていこうと思います。

これを読んでいる人は大丈夫だと思いますが、ネタバレ全開を前提に書いていこうと思うので、もし私の妄言にお付き合いいただけるなら『やが君』全巻を読んでからにする事をお勧めします。

 

今回考えるのは、「園村菜月について」です。

 

園村菜月は小糸侑、叶こよみ、日向朱里の中学時代からの友人で、侑とは同じソフトボール部で汗(や涙)を流した仲です。

黒髪ショートカットで活発でサバサバした印象のスポーツ少女です。

ソフトボールを続ける為に侑たちとは違う高校に進学したという事もあり出番が少なく、2巻の幕間の『深読み書店』には登場せず、コミックス3巻の表紙裏の背の順表に載っておらず、5巻の表紙裏の「学校周辺とってもざっくりマップ」にも家が載っておらず、アニメの円盤の特典の声優さんインタビューもありません。あと、舞台版は未見なのですが、個別にキャストは割り振られていないので出演なし、もしくは良くてアンサンブルの誰かが演じる、位の感じなのでしょう。

正直なところ、立ち位置がおいしい割には不完全燃焼というか、もっと見せ場があっても良かったのではないか、と少しだけモヤモヤを感じざるを得ない、というのが個人的な感想です。

そして、私がごくごく個人的に『やが君』において「そうだけどさ、そうかもしれないけどさぁ…!」と納得のいっていない展開が一つあります。

 

修学旅行での沙弥香の漫画誌に残る完璧な告白を燈子が断る。

 

これに関して、「この告白を振る?!」と読み返すたびに思います。燈子が水鳥を見て侑を連想さえしなければ、

「私も沙弥香が好き。付き合おう」

とまではならないまでも、

「今は……自分の気持ちが分からないの。(でも、沙弥香にはそばにいて欲しい、離れてしまうのは辛い。)もう少しだけ、時間が欲しい。それじゃ……だめかな?」

くらいの感じで消極的に一歩前進して、お試し恋人ルートに突入しても良かったのではないでしょうか。

おそらくその後、年末の燈子の舞台を沙弥香が観に行ったり、クリスマス、初詣、バレンタインあたりを無難に過ごして、つかず離れずゆっくりと距離を縮めていこうとお互いに(主に沙弥香が)頑張るのだと思います。

ですが、2月19日の燈子の誕生日(バレンタインから日がそんなに空いていないので、ホワイトデーとかでも良いかもしれません)で少し良い雰囲気になった勢いで沙弥香がうっかり距離感を誤ってキスとかしようとしてしまい、燈子はそれを受け入れられずに気まずい雰囲気になります。

そして燈子と沙弥香が3年になって次代への引き継ぎが終わった生徒会役員としての最終日、沙弥香から

「(やっぱり私では駄目だって分かったの。)あなたはもう……自分の気持ちが分かっているでしょう?さようなら」

といった具合で別れ話(完全に付き合っている訳ではありませんが)を切り出す。場所は、生徒会室裏のベンチでしょうね。

こんな感じのエピソードを挟んで貰えるのなら、後の細かい進行は40話の感じで粛々と進行してくれて構いません。

沙弥香はとても素晴らしい子なので、(主に顔が)大好きな燈子との間に少し踏み込んだ甘い(そしてほろ苦い、それでも振り返ってみれば良い)思い出を作ってあげたいのと、大団円を迎えたあたりでは、軽く侑に「燈子の元カノ面」が出来る感じにしてあげたいのです。

 

そして、その世界線において私が菜月に期待したいのは、39話の槙君の役割です。

もっと正確には、燈子とすれ違って傷心の侑に寄り添い、燈子への思いを諦めきれない事を実感させる役です。

ひと言で言ってしまえば、矢沢あい先生の『天使なんかじゃない』の中川ケンです。

例えばこんな感じで。

傷心の侑がひとりバッティングセンターで憂さを晴らしていたら菜月とばったり再会。

「侑……お前どうかしたのか?」

「……別に、どうもしてないよ?」

「そんな魂が抜けた様な顔して、ガタガタのフォームで……どうもしてない訳ないだろ!」

「…!」

「……まぁ無理に話せとは言わないけどさ」

といった具合に。

そして、菜月と良い時期まで過ごして、

「やっぱりわたしが好きなのは…七海先輩なんだ」

と再確認をする感じのエピソードを挟んで欲しかった訳です。まぁ『天ない』の焼き直しというか、恋愛漫画のある意味ベタな展開ではありますが、こういうのが一つ入るくらいのテンポだと個人的には落ち着くかな、と。

そして、これにより本編では侑の背中を勢いで押してしまった槙君も、「舞台に干渉しない観客」のポジションを堅持する事が出来ます。

ここで考えたくなるのが、

 

菜月は侑に恋愛感情を持っていたのか?

 

これでしょうね。

現時点では、「その可能性も無い訳ではないけれど…どうもそんな事はあまり無さそうだなぁ」というのが結論です。

菜月に一番スポットライトが当たるのはコミックス19話(アニメ10話)、朝にランニングをする侑が犬の散歩中の菜月と出会い、会話の流れでそれぞれの夏合宿に備えて一緒に買い物へ行くエピソードでしょう。

そして、買い物が終わった後に寄った喫茶店で、侑が「いかに燈子が勝手で、それに自分が振り回されているか」を愚痴るのを見た菜月が、

「なんか変わったなぁ」

「一回ぐらいおまえがいっぱいいっぱいになってるところ見たかったんだ」

などと笑みをこぼしながら言って、

「それ(侑をいっぱいいっぱいにしたもの)がソフトじゃなかったのはちょっと悔しいけど」

と、物憂げな表情で心の中で思うシーンでしょう。

結構うかつに朱里を恋愛ネタでつついて場の空気を微妙にしたり、「侑、決めるの遅い」とズバッとダメ出しする菜月が、唯一言葉を飲み込むシーンでもあります。

多くのやが君ファンは、ここから菜月の巨大感情を妄想する訳です。

このシーンを根拠として妄想を膨らませ、菜月は侑に恋愛感情を多分に抱いているという仮説に基づいて妄想をするならば、さきに私が提示した「沙弥香の告白からの消極的進展ルート」のバッティングセンターでひと段落した後で、

「私が見たかったのは、そんな侑じゃない」

「…ダメだな。これだけは絶対に言わないでおこうと思ってたのに…」

「私ならお前にそんな顔させたりしない!」

みたいな感じで菜月がひた隠しにしていた気持ちを打ち明け、抱きつくなりキスを奪ったりして、それに「いいか、もう…」モードになっている侑がズルズルと甘えてしまう。

そして、紆余曲折を経て、

「やっぱり菜月じゃダメでした」

「悔しいなあ」

こういう事になるでしょう。

でも、これでは燈子と沙弥香が辿る(存在しない)ルートとそう変わらないものになってしまいますし、侑と菜月の関係が清算されるタイミングを、良い感じに燈子と沙弥香が別れるタイミングと合わなければいけません。

菜月に侑への恋愛感情を持たせるのは、あまり味の良い手ではなさそうです。

 

ここで余談。菜月はどこのポジションだったのか。

私はピッチャーだったと考える事にしました。

コミックス4巻19話を読む限り、侑が背番号4(セカンド)なので、相棒感を出すならショート(背番号6)がベストだとは思うのですが、背番号6(8と12も)を付けた選手が既に存在しており、あえなく断念せざるを得ませんでした。

そして、中学のソフトボール部では主将がポジションを問わず背番号10を付ける事が多いらしいので、「それなら菜月は背番号10で、主将でショートならどうだろう」という線を考えてみました。

が、今度はアニメの10話を見てみると、同じシーンに背番号5、8、10、12の選手がいるんです。菜月は主将でもありませんでした。

という訳で、原作でもアニメでも矛盾しない様にする為には、菜月=ショート説は断念せざるを得ませんでした。

という訳で、「それならもう菜月はピッチャー(背番号1)でいこうじゃないか」とあいなりました。強気のピッチングでチームを鼓舞するエース、実にそれっぽいです。

そして、菜月のポジションの投手にする事で出来る事があります。

ケガによる投手断念からの、野手への転向エピソードです。

こうする事で、侑と菜月の恋愛ではなく、菜月が投手断念から野手転向を目指すリハビリ、猛特訓に付き合い、菜月が見事レギュラー復帰する過程を経て、「苦しくても諦められない、諦めたくない」みたいな方向から侑が燈子への思いを再確認するルートの構築が可能となります。これなら比較的エピソードを切り上げるタイミングが取り易そうですし、気分転換の為には身体を動かすタイプの侑にはうってつけのリハビリだと思います。

実際、コミックス8巻180ページで、侑と菜月がストラックアウトで遊んでいるシーンでは、右利きのはずの菜月(コミックス4巻19話での、ECHOでのケーキの食べ方を参照)が左で投げています。「現役ソフト部だから、ハンデとして左で投げてる」でも通りそうですが、「ケガで右では投げられない」も通ると思います。

 

さらに余談。

ソフトボール部があるから」という理由で進学先を選んだ菜月ですが、「菜月ってどこの球団のファンだろう?」などと考えてみました。

これは「菜月が」というよりは、「仲谷先生が」になりますが、埼玉西武ライオンズファン説を緩めに推そうと思います。ごくごく個人的な話をさせてもらうならば、読売ジャイアンツファンであって欲しいですが。

「主人公が(それもデビュー作の)以前やっていたスポーツを何にするか?」を考える際に、全く思い入れの無いスポーツを持ってくる事は少し考えにくい気がします。

団体スポーツならバスケットボール、バレーボール、競技人口は少ないけれど女子サッカーあたりでも良い訳で、菜月は「スポーツ強豪校に行く為に遠見東高校を選ばなかった」でも良い訳です。

ちなみに、このサイトによると、首都圏でも関西圏でも「ソフトボール部のある高校」は約三割から四割、女子高に関して言えば、約五割ほどみたいです。「どの高校にもまずある大メジャーな部活では無いけれど、ある所にはまぁあるので、そっちに行く」くらいの感じで、進学先が分かれる理由付けにするには実に丁度良いスポーツだとは思います。

少なくとも仲谷先生は、贔屓のスポーツがソフトボール(野球)であると言っても過言では無いのではないでしょうか。「野球とソフトボールを一緒にするな」というお叱りがあるかもしれませんが、そこは勘弁して下さい。

この美しい沙弥香のピッチングフォームを見て下さい。

野球への強い思い入れを感じ…ても良いと思います。

本当なら「これは涌井(秀章。元ライオンズの中心的な投手で、現在は楽天イーグルスに所属)のピッチングフォームだ!」等と断言出来れば良かったのですが、残念ながらこの一枚ではそこまでには至りませんでした。

39話の侑と槙君がバッティングセンターに行くシーンでの二人のバッティングフォームとかからも、有識者が頑張れば何か拾えそうな気はします。

そして、wikiによると仲谷先生は滋賀県出身です。

少し調べてみたところ、滋賀県西武グループの創設者である堤康次郎の出身地であり、西武グループ発祥の地なのです。

その影響で滋賀県を走る近江鉄道(NR遠見駅の元ネタであるJR彦根駅に隣接する形で、彦根駅もある様です)は西武グループに属していたり、皇子山球場ではライオンズのゲームが開催されたり、滋賀県のローカルTV局であるびわ湖放送BBC)では、テレビ埼玉が制作したライオンズ主催試合の中継番組『TVSライオンズアワー』が放送されていたりします。

そして仲谷先生は、連載開始時には埼玉県在住なんです。

ライオンズの本拠地であるメットライフドームへのアクセスが良さそうですし、テレビ埼玉ではさきに触れた『TVSライオンズアワー』に加えて、ライオンズの情報番組である『LIONS CHANNEL』が放送されています。

更に何か無いかと探していたら、槙君と山川穂高選手(ライオンズの中心的な内野手。2018年と2019年のパリーグ本塁打王)の誕生日が同じ(11月23日)、なんていう事も判明したので、念のため書いておきます。まぁこれはさすがに偶然でしょうが、もし仲谷先生がライオンズファンだったとしたら、密かな遊びとしてこの位のネタを仕込むのは楽しいだろうな、とは思います。

そして、詳細は省略しますが、やがて君になる』の聖地は『西武』池袋線沿線が多いんです。

仲谷先生から獅子魂を感じるのは考え過ぎかもしれませんが、これらを踏まえると仲谷先生と、『やがて君になる』と「西武」は切っても切り離せない何かを感じてもバチは当たらないと思います。

 

いい加減話を戻します。

私がなぜ菜月は侑に恋愛感情を抱いていない、と考えるか。

まず、侑と菜月の距離感というか、コミュニケーションの頻度です。

四人で買い物に行った後で侑と菜月が会うのは夏合宿前、それも約束をしたからではなく、侑が燈子へのモヤモヤを払拭する為にランニングしていたら、偶然犬の散歩中だった菜月にばったり遭遇したからです。

そして、そこで近況報告で「今度生徒会で劇をやる」と言っています。生徒会で劇をやる話が最初に出たのはコミックス2巻6ページを見る限り5月初旬、侑と燈子が図書室で中間試験に向けて一緒に勉強をしたのが恐らく5月26日(図書室の本を借りられる期間を一週間として、コミックス2巻82ページの2コマ目で本の返却日が6月2日とあるので)、そこから10話で侑が生徒会劇を手伝う事を完全に承諾したのは中間試験明け(おそらく6月初旬)です。

つまり、侑と菜月は四人で遊びに行ってから夏合宿に向けて買い物するまでの間、どう少なく見積もっても2か月弱連絡をとっていない訳です。

メールはしているけど生徒会の話題が出ていない可能性もありますが、1巻124ページで侑が菜月に「菜月なかなかメール返してくれないんだもん」と言っているので、いずれにせよメールの頻度はそう多くなさそうです。もっと言えば、この感じだと菜月から侑へメールはほぼ期待出来ないのではないでしょうか。

この感じから、菜月の侑への感情の巨大さを感じる事はやや難しい気がします。

 

次に、コミックス4巻64ページの、侑の姉である怜のリアクションです。

怜は以前燈子が家に来た際に様子を見て、燈子の侑へのただならぬ感情にピンと来ています。まぁこれは燈子が分かりやす過ぎるというのもありますが。

しかし、合宿前に侑が一緒に買い物に行った相手が菜月だと聞くと、「なーんだ、つまらん」と一言。

怜は菜月の存在を認識している様子ですし、おそらく菜月は今までに侑の家に遊びに行った事もあるのだと思います。

もっと言えば、3巻56ページの怜のモノローグの「(優柔不断な侑を)引っ張りまわしてくれる人がいるといいんだけど…」の『引っ張りまわしてくれる人』の前例は、菜月の事だったのではないでしょうか。

怜の観察眼をあまり信用し過ぎるのも危ういところがありますが、もし菜月が侑にそういう感情を向けていたら、「面白くなってきたな、こりゃ」とまではいかないまでも、「これは厄介な事になりそうだぞ…」くらいはモノローグで言っても良さそうなものです。

 

そして、菜月はおそらく高校在学中に、遠見東の文化祭に遊びに来ていません。

というのは、もし45話の高校卒業後の文化祭以前に遊びに来ていたら、どこかで菜月と槙君とは面通しが済んでいそうなものです。

(大好きな)侑が出演していて、こよみが脚本を書いた舞台なら、菜月は絶対に観に来たいはずです。それは一年生の時のみならず、おそらく侑たちが二年生の時の生徒会劇でも侑は出演しているし、こよみが脚本を書いている可能性は高いはずです。

更には、「朱里が気になってるらしい堂島って奴」も見に行ける訳ですし。

まぁこれに関しては、「自分の高校の文化祭と日程が被っていたから」と言われてしまえばそれまでですが。

 

侑と菜月だけを見て二人の関係性を妄想するのはしんどいので、ここからは侑、菜月、朱里、こよみの友人関係を見ていく事にします。

 

コミックス4話(アニメ3話)の四人で遊ぶエピソード。

きっかけは朱里からのお誘いです。コミックスでは文面までは分かりませんが、アニメ版だと

「今度の休み空いてる?」

「菜月とこよみも来るから遊ばない?」

という文面です。

ちなみに、朱里のアイコンはハンバーグです。お店で撮ったものか、自作なのかは分かりませんが、キャラが出ています。とてもかわいい。

はい、ここ。

重要なのは、朱里が侑に連絡した時点で、菜月とこよみの参加が決まっているという事です。

まず朱里、菜月、こよみの参加が確定している上で、侑が追加招集されているんです。

仲良し四人組とはいえ、人間関係の濃淡はどうしても発生してしまうものです。

それは燈子、沙弥香、愛果、みどりの二年生の仲良し四人組でも、どうしても燈子と沙弥香、そして愛果とみどりに分かれる様に。

そして、『やがて君になる 佐伯沙弥香について(3)』にある様に、時間の経過と共に沙弥香は愛果よりもみどりについ連絡してしまう様に。

では、この集まりの言い出しっぺは誰なのでしょうか?

遊ぶ約束の言い出しっぺなら、十中八九菜月か朱里だと思います。

もし菜月が侑に巨大感情を抱いていたとしたら、菜月がまず侑を遊びに誘い、「朱里やこよみも誘っといて」とか、もっと言えば菜月が侑、朱里、こよみにお誘いを一斉送信でも良さそうなものです。でも、菜月から侑にメールは来ていません。

なので、朱里が大垣先輩にフラれて凹んで、「別にこれで終わりじゃないんだ」と自分に言い聞かせて心の整理を済ませ、次の休みは誰かとパーっと遊びに行って気分転換しよう、という流れなんかが有力だとは思います。

具体的に妄想するならば、

朱里がこよみと一緒に下校して、どちらかの家で「今度の休みとか遊びに行きたいねー」的な事をまったりと話している時に、タイミング良く菜月から

「今度の休み遊ぼうぜ」

と連絡が来て、

「いいね!今こよみと一緒だけど行くって言ってる。あ、侑も誘おうよ」

「任せた」

といった流れでしょうか。

つまり、少し寂しいですが、いずれのケースでも菜月にとって「遊びたい!」となった時に最初に連絡するのは侑ではなさそう、という事です。

 

そして、侑は一人遅れてショッピングモールに到着しています。

四人とも同じ中学だった訳で、菜月は少しだけ怪しいですが(犬の散歩ルートから妄想するに、おそらくマップにギリギリ載らない、北西部の川沿いあたりといった所でしょうか)、全員近所に住んでいる訳ですから、駅なりバス停なりに集合して、四人で一緒にショッピングモールに行けば良くないですか?

そして侑は「遅くなってごめん」的な発言をしていないので、集合時刻には間に合っているし、一人遅れて到着する事は全員了承済みと考えて良さそうです。

ここまでを踏まえて、「侑だけ四人の中で友人関係の絆が薄め」と判断してしまうのはあまりにも寂しいので、ゴールデンウィーク直前で品出しする本がどっさり来たので、それだけは手伝ってから来た」あたりに落ち着けようと思います。

そして、侑と菜月の再会からの両手握手

ウマ娘だったら因子継承(ウマ娘を育成する際に、任意のウマ娘二人のステータスやスキルを次代に引き継ぐ儀式的行為)が出来てしまいそうな、なかなかにしっかりとしたやつです。ページを跨いで余韻が残っていますし

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参考画像。髪や身長差のニュアンスが侑と菜月に少し似ているウイニングチケット(左)とナリタタイシン(右)による因子継承。いわゆるチケタイ

「菜月ひさしぶりー」

とは言いますが、中学の卒業式は概ね3月中旬から下旬に行われるので、一ヶ月経ったか経たないか位でしょう。一ヶ月程度、例えば夏休みの間まるまる合わない程度の期間を開けて再会した時に、あのクールな侑からあそこまでがっちりと因子継承両手握手をする。

つまり、菜月から侑への感情よりも、侑から菜月への感情の方がどちらかと言うと大きかったのではないでしょうか。

まぁ、「高校生にとって一ヶ月は長いし、侑は遊ぶ前に朝からひと仕事終えてから来たので、解放感から少しテンションが上がっていた」あたりも侑には乗っていたのかもしれませんが。

侑、菜月、朱里、こよみは仲良し四人組。

でも、二人ずつに分けるなら侑と菜月、朱里とこよみに分かれがちで、菜月は侑の(便宜上)相棒なのにも関わらず、それと同等(もしくはそれ以上)に朱里とも相当に仲が良い。

 

この侑、菜月、朱里の絶妙な友情の濃度の関係は一体どういう事なのか。

 

ここで、5巻カバー裏の「学校周辺とってもざっくりマップ」を見てみましょう。

これによると、侑と朱里(こよみもですが)の家の距離がとても近いんです。

この距離ならおそらく幼稚園や小学校が一緒でしょうし、子供会や町内会でも交流がありそうなものですし、小学生の時は集団登校で一緒に通っている、とかすらありそうです。もちろん、中学入学以前に朱里が藤代書店で買い物(おそらくマンガ)をする事もあるでしょう。

侑と朱里は家の距離感と性格を踏まえるならば、中学以前に友人関係になっている、何なら一番の幼なじみになっていてもおかしくないのではないでしょうか?

 

そこで、そのあたりをダイナミックに解決する為に、「侑は中学校入学のタイミングで現住所に引っ越してきた」という説を推してみようと思います。

ここで「中学の時に引っ越してきたのは侑ではなく朱里」説も浮かびましたが、手に負えなくなりそうなのでここでは考えない事にします。まぁそうだとしても、本が大好きで近所に住んでいるこよみと中学入学まで親交を深めていないのはやや不自然、という疑問は依然残りますし。

きっかけは、侑の祖父の逝去でどうでしょう。

祖父の逝去で藤代書店の存続が危うくなり、祖母一人で店を切り盛りしながら暮らすのは厳しいだろう、そして、侑の祖母も「体が動く限りは、出来るだけ長くお爺さんが遺してくれた本屋を続けたい」という意志もあったりして、侑の母(円盤2巻のディスクガイドによると本名小糸涼子。藤代書店の看板娘。実家である藤代書店の三階に少なくとも侑と怜の部屋があるので、一人娘という事は無いのかもしれない。しっかりしてそうなのと女系家族の雰囲気があるので、もしかしたら妹とかいたりして。ちなみに、夫である侑の父は本名小糸徹二。温厚そうで、名前からして次男である事が有力なので、小糸母(藤代家)にとっては色んな意味で理想的な男性だったのかもしれない)がひと肌脱いで祖母と同居、藤代書店の手伝いをする事に決めた、といった感じ。

最初に「侑がどこかから引っ越してきたのではないか?」と考えたのは、侑が時おり使う少し独特な疑問文(「○○です?」と、いった具合に「か」を抜く表現)がどこかの方言なのではないか、と思ったのがきっかけです。

ただ、ざっと調べた感じでは、あくまでくだけた口語表現であり、どこかの地方の方言である、という情報は見つかりませんでした。

そして、アニメ6話によると怜は侑の5歳上の大学3年生で、コミックス33話によると怜が彼氏のヒロ君(円盤3巻のディスクガイドによると本名大塚紘。怜とは高校のころからの恋人同士。わりとモテる)にケーキを作るのは5回目らしいです。

なので、「怜が引っ越しがあっても転校せずに済む範囲内(同じ市内やせいぜい隣の市とかで、小学校の学区は違う、くらいの感じ)に住んでいた」という事で。

という訳で、侑は知り合いゼロの状態で中学校に入学します。

そこで同じクラスになって、初めて声をかけてきたのが菜月です。

「お前どこ小?あぁ、中学から引っ越してきたのか」

「なぁ、ソフト部入らないか?友達作るならスポーツで同じチームになって、一緒に汗をかくのが一番だよ」

「頼むよー。ソフト部に一緒に入ってくれそうな人いないんだよー。絶対楽しいからさー…(朱里はバスケ部希望で、こよみはおそらく帰宅部か文化系の部活)」

といったやや強引めな勧誘を経て侑はソフトボール部に入部。そして、菜月の言う通りソフト部で友人が出来るし、朱里やこよみとも仲良くなっていった、と。

これなら侑が菜月にがっちりと因子継承両手握手をするのも頷けます。

 

なので、中学時代の菜月が侑の事をどう考えていたのかをざっくりと言うと、

「友達になったタイミングは朱里やこよみより遅いけど、三年間同じ部活で汗を流した事もあるし、一番の友達って言っても良い感じ。基本的にクールで頼りになるけど、間違いなく私の事めっちゃ好き(恋愛感情ではなく)だよなぁ。真面目で押しに弱いというか、流されやすいところがあるからそこは少し危ういかも。多分私が誘ったら同じ高校に来てくれそうな程に…。それは弱みにつけ込むみたい、とまでは言わないけれど、少し違うよな」

といった具合だったのではないでしょうか。

それが別々の高校に進学してしばらくして会ってみたら、侑の口から出るのは「七海先輩が~」ばかりな訳です。

そして、4巻19話のECHOでのシーンの菜月の心境は、

「侑は私の事をめっちゃ好きだから、別々の高校になったらどうなるか少し不安だったけど、朱里やこよみもいるし、まぁ大丈夫そうだな。それにしても…『七海先輩』って人の事を好き過ぎじゃないか?高校に入ってまだ半年も経ってないのに。私は三年間一緒にいたのに、こんなにいっぱいいっぱいな侑は初めて見た。私も結構強引にソフト部に誘ったり、初心者の侑に結構ムチャな事を言ったりしてたはずなのに。侑が楽しくやってるのは嬉しいし、新しい面が見られたのはちょっと面白いけど、私の事が大好きだった侑がどんどん変わっていくみたいで少し寂しいというか……悔しいな」

こんなところでいかがでしょうか。

という訳で、

 

菜月が侑へ向けていたのは、中学三年間を一緒に過ごして育んだ友情と、頼れる友人であるという信頼と、自分が侑にとっての一番の友人であるという自負。そして、それが変わっていく事に対する喜びと、僅かな寂しさと、そして嫉妬。

 

このあたりを結論にしたいと思います。

 

とりあえず菜月が侑に向けている感情の正体を、自分なりに納得のいく感じに整理する事が出来たので、ここでひと段落です。

これで終わりにしても良いのですが、せっかくなので考えるだけ考えた、かなり尖った仮説も書ける範囲で披露しておきます。それは、

 

実は菜月は恋愛対象として朱里を狙っていた説です。

 

まずは、四人で遊ぶシーン。さきに書いた通り、菜月は遊びに誘うとしたら、まずは朱里なんです。

そして、恋愛モノの映画を観る訳ですが、アニメ版を見るに、「いま、君に愛してると」という、月刊コミック電撃〇〇(おそらくは「王子」)に連載されている漫画の劇場版だと考えられます。ポスターの下部にキャストの名前が載っているので、アニメ作品ではなく、実写版でしょう。

菜月は月刊の少年マンガ(女性向けだったら「電撃王女」とでもなりそうなので)を読むんですね。とても、らしいと思います。

ただ、漫画をあまり読まなそうなこよみですら「原作読んでるけど映画もわりと」と比較的高評価をしているのが少し意外でした。まぁ小説→漫画化→映画化とメディア展開していった大ヒット作品なのかもしれません。

ここで気になったのが、映画を観ようとする時って、事前に時間を調べませんか?

菜月が「あの映画が観たい」となって、映画館の前に着くまでどの映画が観たいのかを伏せていたのはなぜか。

おさらいすると、この集いの流れとしては、

服屋→ゲームセンター→映画→アイス

という具合になっています。

という訳で、本当は菜月が朱里と二人で映画を観たかったけれど、四人で行く事になったので優先順位が下がってしまった、そして提案しづらくなってしまったというのはどうでしょう。

なので、ゲームセンターと映画の間に昼食が入り、そこで

「少し遊び足りないけど、この後どうする?」

「あ、そう言えば菜月、映画観たいって言ったよね?」

「あー…まぁ別にどっちでも良いっちゃ良いんだけど」

「じゃあ時間調べて、丁度良かったら観ようか」

みたいな感じになったのではないでしょうか。

 

そして、四人で遊んだ時もそうですが、コミックス43話で四人がこよみの小説新人賞をファミレスで祝う時も、菜月は朱里の恋愛事情に突っ込んでいます。こよみのお祝いなのに。

侑と二人で買い物に行った時には言葉を飲み込んだのに、朱里の事になると我慢が効かない様子です。

そして、菜月はテーブルを挟んで身を乗り出し、朱里の両肩を掴んで揺すっています。

侑にもしていない激しめのボディータッチを、朱里にはしている訳です。

 

さて、だいぶ根拠が荒れて弱くなってきましたが、勢いと思いつきだけでそもそも論を一つ。

キャラクターを生成する際に、「主人公の友人のスポーツ少女」を二人用意する訳ですから、菜月と朱里はキャラクターの差別化が必要になってきます。

それを一番端的に表しているのが名前です。

園村菜「月」と「日」向朱里。

そう、月(Moon)と太陽(Sun)です。

対になっています。

叶『こよみ』がいるんだから、月(Month)と日(Day)じゃないの?ですって?聞こえません。

情熱的で、叩けば恋愛ネタがポロポロ出てくる朱里。

そんな朱里の対にするのであれば、菜月は「冷静で、自分の恋愛ネタは決して提供せず、心にずっと秘め続ける」という事になります。

そう考えると、45話で堂島君と幸せそうにしている朱里を冷やかしながら、心では泣いているのかも知れません。

菜月のそんな姿に、『島耕作シリーズ』の樫村健三(島耕作の大学からの友人で、会社も同期入社。同期の中でのエース格。島と、後に島の最初の妻となる岩田怜子との飲み会をセッティングしたり、島のピンチを機転を利かせて救ったりするクレバーな良き友人。だが、のちに実は同性愛者である事が判明し、樫村は樫村で結婚して家族を持った後もなお島への巨大感情を振り切る事が出来ず、酒の勢いでカミングアウト。最後はフィリピン駐在中にテロリストに襲撃され、島の腕の中で息を引き取る)を見ました。

せめて、菜月と朱里の間で生き死にがどうこうといった悲劇的なイベントは起こらないで欲しいものです。

…さすがに少し話が飛躍し過ぎました。申し訳ありません。

 

最後にもう一つだけ。

百聞は一見にしかずというか、ここで観て欲しいのが、アニメ3話で四人が軽く近況報告をしながらエスカレーターに乗っているシーンです。

コミックスでは侑と菜月、朱里とこよみという分かれ方になっているのですが、アニメでは一番上のエスカレーターに侑、次に菜月と朱里、そして一番後ろにこよみ、という並びになっているんです。

そこで、

菜月「(朱里は)バスケだろ、知ってるよ」

朱里「言わせろよ」

ここです。

ここで朱里が菜月の頭に軽めのツッコミとしてチョップをするんですが、ここをコマ送りにして観て下さい。

菜月がものすごく満足げな、作中で一番可愛い顔をしています。

画面のキャプチャーはやり方がよく分かりませんし、色々と引っかかったり怒られたりすると困るので、ここではしません。

ぜひ購入して確認してみて下さい。

 

観ましたか?

1巻だけじゃ物足りないですよね?

4巻まで出ているので全部買って、全部観ましょう。

 

全部観ましたか?

はい、そうなんです。

誠に残念ですが、アニメの1期はコミックス5巻の途中で終わっているんです。物語はここからが盛り上がりどころですし、映像化されていない菜月の出番はこれ以降もまだまだあります。何なら追加エピソードが欲しいくらいです。

連載終了から二年以上経っていますし、仲谷先生は新連載『神さまがまちガえる』を始めてしまっていますが、それでも『やがて君になる』はまだ終わっていないのです。

もう少しだけ『やが君』を応援しながら、アニメ2期の、そして舞台『やがて君になる』encoreの報せを待ちましょう。

 

これでようやく気が済みました。

最後の最後になりますが、この長い妄言にお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

読んでいただいた方に、何か一つでも「この考えは面白い」「これは気付かなかった」等と、気付きや得るものがあれば幸いです。

お疲れさまでした。

やがて君になる 堂島卓についての妄言

はじめまして、木闇と申します。

ちょくちょくpixivで『やがて君になる』の短い二次創作小説を書いています。

不肖ながら「やがて君になる Advent Calendar 2020」という企画に参加させていただく事になり、今回はいつも書いているやが君のSSではなく、「出来る限り辻褄の合わせた妄言」を書こうと思いたち、勢いでこのブログを開設しました。

「考察」と呼べる程の緻密なものを書ける気がしないので、「こうだとソレっぽくないか?」とか、「こうだと面白いかも」という妄言を、出来るだけ原作に忠実に書こう、という事です。 

念のためにおことわりを一つしておくと、この妄言はネタバレ全開でお送りするので、もしお付き合いいただけるのであれば、「やがて君になる」全8巻を読了してからにする事をお勧めします。

 

今回考えてみようと思ったのは、「堂島卓」について。

最後に生徒会に加入した、五人目のメンバー。

気さくでカルくて、面白そうなものにはとりあえず飛びつく。

そして、たまに熱血な愛すべきムードメーカー。

のちに生徒会長を務め上げ、日向朱里という「やがて君になるのキャラクターの中で、お嫁さんにしたい子ランキング」堂々の一位(独断)の可愛い彼女まで出来てしまう。 

 

今回私がダラダラと書き綴る事の要点をひと言でいうと、

 

「堂島君、実は初登場からどこかのタイミングまでは彼女がいたんじゃないか?」

 

です。

 

 

考えるきっかけになったのが、この自ツイートです。

七海燈子佐伯沙弥香

この二人は、遠見東高校のマドンナ的存在ツートップでしょう。

男子生徒は(何なら女子生徒でも)どっち派かを話題にし、告白して玉砕する事は恥でもなんでもなく、むしろ勲章になってしまうような。

 

そして、もし「この二輪の高嶺の花はさすがにちょっとな……」と気が引けたとしても、同学年には小糸侑がいます。

ちっちゃくて、可愛くて、親しみやすそうな同級生。

上記二人に較べるとべらぼうにモテる訳では無いでしょうが、中学の卒業式で男子に告白される位には、普通に魅力のある女の子です。

おそらくは、「あれ?今までずっと友達だと思ってたけど、いつの間にか俺は小糸の事が……」みたいなパターンで。

『やが君』は百合漫画のど真ん中ですが、堂島君から見れば学園ハーレムものも良いところです。 

 

しかし、堂島君はなびかない。

 

同学年の生徒会役員である槙聖司に、「七海派?佐伯派?それとも意外なところで小糸さんか?」などと軽口を叩いたり、燈子が侑を名前呼びした流れにあわよくば自分も、と乗っかろうとしたりはします。

が、自分が誰派かを表明する事はせず、燈子に笑顔で名前呼びをスルーされても「手強いなー!」で終わりです。

 

ここで余談。

実際のところ、堂島君は誰派だったのか?

個人的にはずばり、「あえて言うなら佐伯派」を推そうと思います。

・2巻42ページの「意外なところで小糸さんか?」という発言で、まず侑はあえなく除外

・生徒会合宿での劇の練習中、役に入り込んだ燈子に対して漏れた、「すげ…」という一言。どこか他人事というか、もし七海派だったら、もう少し心配してるニュアンスでも良さそう

・4巻31ページ(劇の打ち合わせ中にキスシーン入れる入れないのくだり)や、6巻61ページ(劇の休憩中の一幕)の様に、ちょいちょい堂島君は沙弥香にちゃちゃを入れている

決定打には欠けますが、堂島君は、どちらかと言えば燈子よりは沙弥香の方が少し話しやすい、位の感じなんだと思います。

 

話を戻します。

 

「百合漫画に男性が介入する事はよしとされない」といったメタな大人の事情的なものはあるにせよ、堂島君は生徒会の女性メンバーを恋愛対象として扱う事、もっと言えば人間関係を深めようとする事をストイックなまでにしようとしません

「自分はあくまで観客」というスタンスの槙君ですら、その後うっかり侑の背中を押してしまうというのに、堂島君は最後まで生徒会内の人間関係には一切介入せず(あえて言うなら、朱里へ向けた「好きって伝えるのが悪いことなわけねぇよ」という言葉が、間接的に侑にも響いた程度)、侑と燈子がくっつく事をひとり知らずに物語は完結します

そして、堂島君が作中で一番多く発したセリフは、恐らく「お先でーす」的な、サッサと帰る挨拶でしょう。

もし三人のうちの誰かを好きになったり、アプローチをしようと思ったら少し粘ったり、「この後みんなでパーっとカラオケでもどうすか?」位は言いそうなものです。

あ、そう言えば番外編的なエピソードで下心を自覚、白状した上で「生徒会メンバーでプールに行こう!」と提案していましたね。

でも、その下心も「水着になった麗しい女性メンバー達と一緒にプールでキャッキャウフフする夏の思い出を作りたい」程度の、誰か一人に焦点を絞ったものでは無さそうでした。

チャラいし、恋愛対象は女性だし、下心は一応持っている。

でもサッサと帰るし、生徒会女性メンバーとどうこうなろうという気がゼロ。

 

これはどういう事か?

 

実は堂島君はエスパーで、

 

「七海先輩は小糸さんに夢中だけど、自分が好意を向けられるの嫌っぽいな。佐伯先輩は恋愛対象が女性、というか七海先輩が好き過ぎる。小糸さんは七海先輩が気になってるみたいだけど、恋愛感情自体にピンときてない感じ。よし、面倒くさそうだからやーめとこ」

 

これなら全てに辻褄が合いますが、いくら何でも元も子も無さすぎます。

そこで思いついたのが、

 

「堂島君…さては彼女いる(いた)な?」

 

という訳です。

 

考えてみれば、堂島君は絶対にモテます。

気さくで、ノリが良くて、生徒会劇で真面目な感じの役を演じれば、朱里の友人が「わりとかっこよくない?」とヒソヒソ話をする程度には顔が良く(朱里の同意は得られませんでしたが)、私が『やが君』の沼にハマる前の話なのでネットの情報がソースですが、「遠見東高校生徒総会」なるやが君のファンイベントの為に書き下ろされた朗読劇では、「料理が得意」という一面までプラスされていたそうで。

 

ただ、自分で思いついておいてなんですが、個人的に堂島君は、「女の子と友達として楽しく過ごすのは好きだけど、いざ恋愛関係の段階が見えてくると少し恥ずかしくなってしまうし、男子同士でバカやってる方が今は楽しい」とか、「堂島君って良いヤツだし一緒にいると楽しいけど、彼氏にするのは…うーん」と女子からは思われてるみたいな、いわゆる「ギャルゲーの主人公の親友ポジション」というイメージですし、基本的にはそうであって欲しいところがあります。

なので、「ぜひこの説を支持したい!」と強く推す感じでは無かったのですが、あれこれと説を補強しようとしたり、妄想していると止まらなくなり、「あれ?あれ?この説結構いけちゃうんじゃないか?」と楽しくなってしまったので、この際堂島君について書けるものは思いつく限り全部書いてしまおう、というのがこの記事です。

 

 

まず私が妄想したのは、堂島君の家族、兄弟構成についてでした。

堂島君は生徒会メンバーの中で、唯一家族構成が謎です。

なので、堂島君の人物像から家族構成を妄想して、今後の更なる妄想を捗らせる為に独自にキャラに肉付けをしてしまおう、というアプローチです。

 

堂島君の特性と言えば、「とにかく年上相手に物おじしない」という事です。例を挙げると、

・二学年上の久瀬先輩との間に「あいつなら生徒会に入ってくれそう」と言わせる位の人間関係を作っている

・初登場時から生徒会長の燈子に向かって生徒会の仕事を「地味っすねー」とコメントする

・会った当日、演劇の指導に来た市ヶ谷さんに理子先生との関係について切り込む

・生徒会の副顧問の箱崎先生を「理子先生」と呼ぶ

・生徒会劇の休憩中に沙弥香に向かって「恋人のシーン歓声すごかったっすね」とチャチャを入れる

・朱里を傷つけた大垣先輩を怒りに任せて殴りにいこうとする

 

ざっと拾うだけでもこの位はあります。個人的には、特に一番上がかなり難易度が高い気がします。

おそらくですが、久瀬先輩は剣道部の活動を熱心に行っているし、生徒会長に選ばれる位ですから、中学時代の剣道部でも実力、もしくは人望から部長を任させていてもおかしくない、少なくとも団体戦でレギュラークラスだったのではないでしょうか。

剣道部、いわゆる体育会系の部活の三年生の部長(もしくは団体戦のレギュラークラス)と、自称「弱っちい」一年生の堂島君。

中学生にとっては一学年差でもかなり大きい気がしますし、二学年離れていて、剣道の腕も離れているとしたら、自然に考えると部内での接点は少なく、話す事すら無くてもおかしくありません。

しかし、『やが君』のスピンオフ小説である『やがて君になる 佐伯沙弥香について(2)』の96ページを読む限り、久瀬先輩が生徒会の役員候補として紹介できそうだと考えていたのは、「何人かうちの中学の剣道部から来るかも知れないから、その中の一人くらいは」ではなく、具体的に堂島君一人を思い浮かべている様子でした。

別に「久瀬先輩と堂島君が部活抜きでもそれ以前から幼なじみだった」説でも良いんですが、ここで私は「堂島君には年の離れた兄がいる」説を提唱する事にしました。

これなら対久瀬先輩以外の年上でも物おじしない、という便利な感じになりますし、槙君の「姉二人に妹一人」という兄弟編成とも良い感じの対比になります。

もっと言えば、「堂島君に兄がいた上で久瀬先輩と幼なじみ」でも良いわけですし。

ひと言で言うと、「堂島君、兄貴いそう」です。

 

そして私はさらに、「堂島君は男二人兄弟でなく、妹もいると良いんじゃないか?」と妄想を深める事にしました。

上にある対年上のエピソードと重複するところもありますが、堂島君は対女性においてもかなりの強さを発揮しています。

年上の理子先生、燈子、沙弥香に加え、同級生の侑や朱里、更には男子が苦手そう、何なら性別を問わずにかなり人見知りをしそうな叶こよみにもグイグイ話しかけています。

別に良いんです、兄貴だけでも。何なら一人っ子でも。

でも、「卓兄ちゃんは女心が分かってないんだよねー…」とか何とか言う小生意気な妹がいる事で、(槙君程では無いにしろ)女性とのコミュニケーション能力に説得力を持たせる事が出来ますし、「考えてみたら堂島君は末っ子気質というよりも、バランス感覚や要領の良さを考えるに、中間子である方がしっくりくるかも」と、勝手に納得してしまったのです。

 

(少なくとも)兄、自分、妹という三人兄妹。

生徒会長を務める。

ここで私の頭の中に、ある人物が思い浮かびました。

 

矢沢あい先生の『天使なんかじゃない』の須藤晃です。

 

詳細は割愛しますが、『天ない』は新設校の生徒会を舞台にした学園モノの少女マンガ(それこそ生徒会で劇もやります)で、90年代を代表する超名作です。

須藤晃は『天ない』のヒーローで、リーゼントの強面ながら、性格はまっすぐで優しくてバカで、「しのごの言わずにやるときゃやる男」です。

そして、完全な余談ですが、『天ない』に出てくるマミリンこと麻宮裕子は、

「頭脳明晰で性格はクール、序盤は少しとっつきにくい。そして、(物理的に大きな)胸の中に巨大感情を抱えていて、話が進むごとにどんどん魅力的になる、明るい髪色のお嬢様」

という、沙弥香のご先祖様の様なキャラクターなので、やが君党沙弥香派の諸氏に刺さると思います。読んだ事の無い方は、ぜひご一読を。

 

話を戻します。

 

堂島君の基本的な兄弟構成を妄想していたら、(自分の妄想の中の)堂島君って須藤晃みたいかもな、とあいなりました。

じゃあどうするか?

 

美味しいところ、使えそうなところを頂いてしまおう。

 

つまり、

 

兄の彼女を初恋の相手にしてみてはどうか?

 

です。

これは個人的に、妄想を進めてる過程で、「兄弟の絡んだ三角関係…好きかも」と気付いただけの話です。『天ない』や、椎名軽穂先生の『君に届け』、高須賀由枝先生の「グッドモーニング・コール」あたりですね。

私が読んで来た、フィクションの、兄弟の絡んだ三角関係は、

・基本的に年上は年下を大事だとは思っているけど、恋愛の相手としては見ない

・誰も悪者にならずに最終的には丸い感じに収まる

 

といった具合に優しく仕上がっているので、安心して見られるからだと思います。本当にやるのはちょっとアレだと思います。

 

という訳で、堂島君の初恋の相手は兄の彼女です。仮に「ハルカ」とします。

 

まぁ普通にきれいで魅力的なお姉さんであれば何でも良いんですが、個人的には「断片的に沙弥香に似ている部分がある」とかだと面白いんじゃないか、と思っています。

例えばそれが、「本当は辛いのに、無理して笑顔を作っている時の顔」とかだと、「堂島君が高一の冬以降に、落ち込む沙弥香をほぼ下心無しで慰める」みたいな良い感じのエピソードが出来そうです。

そして、いつになるか分かりませんが、さらにその先で、「朱里との事で悩む堂島君を今度は沙弥香がビシッと叱って喝を入れる。もしくは、優しく気付きを与える」とか。

 

また脱線してしまいました。戻します。

 

堂島君とハルカについての大まかな筋ですが、小六の終わり頃とかに、兄が家に連れてきたハルカに一目惚れします。

ここで、「堂島兄も剣道経験者で、それ繋がりでハルカと知り合って付き合う事になった」とかにすると、色々と妄想が捗りそうな予感がします。

そうする事で、「堂島兄と久瀬先輩は実は剣道繋がりの知り合いで、堂島君が久瀬先輩と仲が良いのはそのおかげだった」とかもいけますね。先ほどの堂島君と久瀬先輩の関係性にも少し説得力が加わります。

という訳で、堂島君は中学に入ると剣道部に入部します。理由としては、「兄への対抗意識から」とか、「剣道やると可愛い彼女が出来るかも。何ならハルカが振り向いてくれるかも?」あたりで。元々のキャラに加えて、おそらくは部内の実力者である久瀬先輩に可愛がられているのであれば、堂島君の剣道部ライフは楽しいものだった事でしょう。

しかし、恋愛の方はそうはいきません。

何せ初恋ですし、そもそも兄の彼女だしなぁ、という事で、ハルカが家に来るたびに軽くちょっかいを出したり、兄と妹も含めて四人でどこかに遊びに行ったり、勉強を教えてもらったりはしますが、決定的に踏み込む事はとても出来ません。

そして、中三のどこかで兄とハルカが結婚する事になり、その淡い思いは完全に断たれます。これが堂島君の初めての密かなる失恋です。

元々向いていなかったのか、始めた動機がやや不純だったのかは分かりませんが、結局剣道は大して上達しませんでしたし、受験もあるので、剣道へのモチベーションはここで失います。

 そして、心にぼんやりとした傷を抱えたまま、中学の卒業式を迎えます。

 

ここで、告白されます。彼女の名前は仮に「ヒビキ」とします。

 

ヒビキは学年トップの秀才で、医者の家系の娘。

性格はやや内気で恋愛に関しては奥手だけど、真面目で優しくて芯は強い、といった感じ。

話が少し前後しますが、気さくな堂島君は勉強で分からない事があると、特に下心なく(無理だと分かっていても本命はハルカなので)ヒビキに話しかけ、勉強を教えてもらいます。堂島君がやや理系寄りなのは、ヒビキのおかげだったりして

そして、堂島君は中学時代に良くしてもらっていた久瀬先輩のいる遠見東高校へ何とか合格、ヒビキは遠見東よりもさらにレベルの高い、電車通学をする感じの少し離れた超進学校へと進路が決まります。

そして、勉強を教えたり交流する中で堂島君の事を好きになったヒビキは、勇気を振り絞って卒業式の日に堂島君に告白します。

ここは、堂島君からではありません。

なぜなら、5巻134ページの堂島君が朱里を慰めるシーンで、「告るとかかっけーじゃん」と言っているからです。自分に出来ない事、やった事が無い事をやった朱里だから「かっけー」と思う訳ですし、もしこれで堂島君が誰かに告白した事があるなら、彼はどさくさに紛れて自画自賛をする変な感じになってしまいます。

 

そして、(傷心の)堂島君は別にヒビキが嫌いじゃないですし、何でもとりあえず乗っかってみる性格なので断る理由も特に思いつかず、さほど悩まずにヒビキの告白を受け、めでたくカップルが成立します。侑の反対ですね。

ここで、堂島君の生徒会への加入が遅れたのは、「初彼女が出来て、4月は浮かれていたから」というのはどうでしょう?

で、久瀬先輩の再三の要請に渋々、でも面白そうという気持ちもあるにはあるので、生徒会役員の話を受諾する事を決めます。何せ剣道ばかりやってろくに生徒会に顔を出していない久瀬先輩に生徒会長が務まっていた訳ですし、内申点がおいしそう」というのも他愛のない軽口の様で、実は「ゆくゆくはヒビキと同じ大学に入りたい」という考えがあったのかも知れません。

 

ここで余談。

堂島君の本編初登場は普通に考えると2巻10ページですが、もしかして、もしかしたら1巻146ページで変な汗かいてきている男子生徒に「落ち着けって」と声をかけているメガネのモブの彼、これが堂島君だったらどうしてくれよう?という、もしそうなら色々と考える事が増えそうで厄介な閃きが頭をよぎりました。具体的に述べるなら、第4話の扉絵で豊岡慎吾候補者の隣に立っている、彼の推薦責任者と思われる人物です。

「推薦責任者を一年生にする作戦」を燈子以外が使ってはいけない理由は無いですし、候補者は二年ですが、堂島君ならタメ口で「落ち着けって」と声をかけてもそれほど違和感がありませんし、何より、162ページで演説をしながらお辞儀をする姿が少し堂島君っぽいから(髪がつるんとしてるのは、人前に出る為の彼なりの身だしなみの整え方だった、とか)です。

これが堂島君だと、堂島君が生徒会への加入が遅れた理由は、

「実は久瀬先輩と同じかそれ以上にお世話になっている豊岡(陣営の誰か)から声がかかって、彼を応援する事に決めてたから。しかも、全校生徒の前で応援演説させてくれるらしい。面白そう」

あたりにすればまぁいけるでしょうか。

そして、「昨日の敵は今日の友」的な展開は、漫画では(どちらかと言えば少年漫画寄りですが)往々にして熱いイベントになります。堂島君の場合は、『ONE PIECE』のフランキーみたいなものですかね?色恋に絡みそうにないムードメーカーですし。

と、ここまで書いて、早速自分でこの説を潰します。

 理由としては、

・久瀬先輩はささつ2で、燈子と沙弥香が一年生の五月の時点から堂島に目をつけている。実際に誘うのはしばらく後だとしても、これよりも早く堂島君を生徒会役員にしよう、と考える人間がいるというのは、いくら何でも考えにくい

・新聞部の取材を一緒に受けたり、他候補の応援演説をしている堂島君を、侑が2巻10ページで見た時に「? 誰?」とリアクションするのが少し不自然。「…あれ?」みたいに、なんか少し見覚えあるな、位は最低でも欲しい

・侑に「生徒会めっちゃ入りたかった人なの?」「この人すげーやる気あるなぁって」等と声をかけている。これは堂島君は(さほど)やる気がないし、めっちゃ入りたい訳ではないから出る台詞です。もし上の説が通るなら、堂島君は「会長が誰になろうと生徒会役員になりたかった、(内申点目当てとか下心はあれど)やる気のある、少なくともめっちゃ生徒会に入りたかった人」という事になる

・1巻166ページで槙君の隣にいるメガネをかけたモブの彼、これが十中八九堂島君だから

 

そう、堂島君(らしき人物)は1巻で既に登場していたんです。皆さんは気付いてました?

私は上の説を思いついた後で1巻を読み返していてようやく気付きました。これを発見してあえなく全てムダになりましたが、供養の為に一応書いておきます。

 

話を戻します。

 

堂島君にはヒビキという彼女がいた。

これなら燈子、沙弥香、侑の事には目もくれず、生徒会に関してはそこまでやる気を見せずに「お先でーす」とサッサと帰る日々にも説明がつきます。何せ他校に通う出来立ての彼女ですから優先順位が違いますし、会える時間はとても貴重です。

高校生活がどうだとお喋りしたり、制服デートしたり、一緒に勉強したり…絵に描いた様な甘い時間を過ごす事でしょう。一緒に過ごすうちに、堂島君は少しずつヒビキに惹かれていきます。

しかし、幸せな時間はそう長くは続きません。

ヒビキは中学時代はトップでしたが、何せ高校は超進学校ですし、堂島君と楽しい時間を過ごす様になった事もあってそこまで成績が振るわなくなり、勉強面で初めての挫折を味わいます。加えて、内気な性格が災いしてあまりクラスに馴染めず、学校生活が楽しくありません。

ここで堂島君と会って気分転換をする事が出来れば良いのですが、彼が学校で楽しく過ごしている話を聞くのがどんどん辛くなっていきます。堂島君は女心が分からないので、「この間、生徒会のメンバーみんなでプールに行ってさぁ…」なんてエピソードを無神経に披露したりして。

勉強と恋を両立出来るほど器用ではないヒビキは、「堂島君との楽しい時間」と、「将来は医者になるという目標」を天秤にかけ、後者を選択します。

という訳で、堂島君とヒビキは別れます。時期としては、出来れば朱里を侑と一緒に慰める日の前のどこかだと良いと思います。

後述しますが、この別れが堂島君をひとつ大人にして、のちの朱里を慰めるシーンに効かせたい為です。

そして、もしヒビキと文化祭まで続いていたら、まず間違いなくヒビキは遠見東の文化祭に遊びに来ますよね?そして、しれっとみんなに紹介して、「堂島君って彼女いたの!?」とちょっとした騒ぎになる、みたいなエピソードがありそうなものです。

まぁ、生徒会劇前の自由時間を堂島君がどう過ごしたのかは謎なので、「堂島君は文化祭をヒビキと回った」にする事も出来てしまうんですが。

 

それでは別れのシーンです。

別れ話を切り出すヒビキ。セリフとしては、

 「私から好きって言って付き合ってもらう事になったのに、勝手な事を言って本当にごめんなさい。でも、私には医者になるっていう夢を捨てる事は出来ないし、堂島君と会うのが今は…辛いの」

といったところでしょうか。

突然切り出された別れ話に、堂島君は驚くばかり。でも、「ヒビキが本気で将来は医者になりたい」という事を堂島君はよく知っていますし、涙で目を潤ませながら必死に言葉を絞り出すヒビキを見てしまっては何も返す事が出来ず、堂島君は粘る事も、それどころか自分からヒビキに一度も「好きだ」と言う事の無いまま、別れる事を選択します。

こうして堂島君の恋と夏は終わり、作中で彼にとって重要なあのエピソードまで時間を進めます。

 

そう、泣いている朱里を侑と一緒に慰めるシーンです。

 

堂島君は泣いている朱里を見て、「俺は女心が分からんし」と、まずはあたふたします。ここまでの作中のイメージ通りの堂島君です、そのままいくとするならば、大事なところを侑に任せて聞き役に徹するか、せいぜい気休めの言葉を一つ二つかける位でも上出来だと思います。いや、朱里に飲み物を買って渡している時点で堂島君の仕事は終わり、でも良い位です。

しかし、朱里の話を聞き、堂島君は怒りと共に

 

「告るとかかっけーじゃん。なのにそんなその場しのぎの返事なんか」

 

「好きって伝えるのが悪いことなわけねえよ」

 

こんな熱いセリフを言ってのけます。

堂島君が珍しく、いや、作中で唯一強い感情を出すのがこのシーンです。

堂島君は基本カルいけど良いヤツなので、話を聞いているうちに熱くなって、朱里に不誠実な態度を取った大垣先輩への怒りと、朱里への敬意だけでこのセリフを言う事ももちろん考えられます。

ですが、堂島君のこのセリフには、「何となくでヒビキと付き合う事を決め、『好きだ』と伝える事が出来ないまま別れ話を受け入れる事しか出来なかった自分への怒り」と、「自分の意思で堂島君に告白をして、勝手だと思われる事を覚悟の上で将来の目標を選び、自分の意思で別れ話を切り出したヒビキへの敬意」が加わっているのではないでしょうか?

 

そしてここから、堂島君と朱里の物語が本格的に始まります。 

 

 

という訳で、一番提唱したい説の話題としてはここで終わりますし、キリが良いのでここで締めても良かったのですが、もう少し続けます。

 

 

まず、個人的に堂島君と朱里に関して固めたい重要なポイントは、「二人はいつ付き合い始めたのか?」です。これはずばり、「高校の卒業式の日」としたいです。

なぜかと言うと、ここで読んで欲しいのは、8巻181ページの、園村菜月、こよみ、槙君が、堂島君の持っているジュースをごく自然に飲む朱里を冷やかすシーンです。

もし仮に、例えば高一のバレンタインから付き合い始めていたとしたら、堂島君と朱里はこの時点でもうそれなりの歴史のある安定したカップルになっている訳で、今さらジュースを飲んだ位で冷やかしたりしないでしょう。

そして、朱里は冷やかされて少し動揺していますから、冷やかされる事に慣れていないと考えられます。

さらに、侑はその様子を少し浮かない顔で見つめていますから、こういうシーンを見る事に慣れていない

よって、堂島君と朱里が周りの友人の前で自然な感じでイチャついて冷やかされるのはここが初めて、と考えて良さそうです。

逆に、付き合い始めたのがつい先日だったら、そもそも朱里が自然に堂島君の持つジュースを飲む事は無いと考えられます。

 よって、

 

「卒業式から付き合い始めたのは話に聞いてたけど、カップルになってから二人が揃ってるところを見るのは初めて。さすがに付き合って半年とか経つと、自然にジュースを飲んだりもするんだね。ヒューヒュー!」

 

これです。

 

 ただ、ここで(自説の構築の為に)問題になるのが、堂島君と朱里がお互いを意識し始めるスタート地点を仮に朱里を慰めるシーンにするとして、残りの高校生活で二人が仲を深めたり、勢い余って告白してしまいそうなイベントが多過ぎるんです。

ざっと思いつくだけでも、クリスマスとバレンタインが三回、それぞれの誕生日が各二回、体育祭と文化祭が二回、堂島君の生徒会長選挙、修学旅行、朱里のバスケ部最後の大会などなど

自説を貫くには、これだけのイベントをこなした上でくっつかないという、とても過酷でストイックな道を歩かないといけません。

力不足ゆえ、現時点では残りの高校生活全てに妄想を行き渡らせる事が不可能だったので、ここからは新章突入のさわりと、浮かんでいる部分の妄想を、ダイジェストでお送りします。

とりあえず、高校一年の残りの時間については、お互いに意識し始めてはいるけど、「まだ失恋の痛手もあるし、そんなに踏み込むのは止めておこう」といった具合で軽く流してもらいます。

せいぜい「みんなと一緒に初詣に行く」あたりを上限にしたいところです。

ここで堂島君が園村菜月と初の対面を果たすと良さそうですね。原作45話の感じだと、菜月は槙君とは初対面の様子でしたが、堂島君とはそうでは無かった様子なので。

朱里、こよみ、菜月で近所の神社に初詣に行ったら(侑は44話を控えてそれどころじゃ無いでしょうから)、男友達と来ていた堂島君とバッタリ会う、と。

そして、初詣後の女子会で、

 

「さっきのメガネが朱里の好きな噂の堂島って奴かぁ。なんかチャラそうな奴だったな?」

「うん。チャラいよ」

「そ、そんな事無いよ!!って言うか、あたしまだ別に堂島君の事好きって言ってないよね?!」

「あ、朱里また『まだ』って言ったね?これで二回目だよ?」

「おやおやー、朱里さん。私たちと初詣とか来てる場合じゃなかったんじゃないのー?」

「もー!うるさい!!」

 

みたいな。

 

そして、バレンタイン。

まだ意識をし始めて日が浅いし、朱里は根が乙女なので照れ隠しもあって、安い駄菓子のチョコか、「激辛チョコ」的なネタ系のチョコレートを渡す、位がちょうど良いのでは無いでしょうか?

「まぁ、堂島君次第では来年はもう少し考えるからさ!」

位の少し含みを持たせたセリフを最後に添えればバッチリだと思います。

 

そして、決定的な事は起こらずに、高校二年に進級します。

 

ここで新キャラ、朱里の恋のライバルの登場となります。名前は仮に「カオル」とします。

ここからはいよいよ考察もへったくれもない、完全な妄想です。

 

くせっ気で、健康的な美脚とおへその形のキレイさに定評があり、ノリが良くてフレンドリーでボディータッチが多めの、サバサバした元気いっぱいの後輩です。

年上、同級生ときたら、残るは年下でしょう。

運動神経抜群のバスケ部の期待の新人(バスケ選手としてはスモールフォワードで、バリバリの点取り屋。恐らくはセンターか、もしかしたら部長という事でポイントガードを務めるであろう朱里とポジションは被らない)で、しかも良い子なので、新しいバスケ部の部長に就任した朱里はホクホクです。

そして、朱里は堂島君の生徒会長選挙の手伝いをする事にします。

 

ここで余談。

おそらくですが、個人的には堂島君の推薦責任者と、のちの副会長は槙君だったと考えています。理由としては、

・単純に、堂島君は侑よりも、同性かつ、(燈子の代の生徒会長選挙に並んで参加している位だから)同じクラスの槙君と仲が良い

・副会長は究極のサポート役なので、槙君に向いてそう。とりあえず飛びついて動く堂島君を、後ろから冷静にサポートする、みたいな役割分担というか、絵面が浮かびやすい

・槙君は侑の背中をうっかり押してしまった事に後ろめたさを感じていたり、侑には出来るだけ燈子との二人の時間を作って欲しい(時おり侑をつっついて、その話を観客として楽しむ為にも)、とか思っていそうなので、侑と自分とどちらが堂島君の推薦責任者をやるか、という話になった時に、自分から手を挙げていそう

・侑と燈子の物語がひとまずの落ち着きを見せたので、これからどんどん盛り上がっていきそうな堂島くんと朱里の行く末を特等席で見たい

あたりです。

 

話を戻します。

 

その関係でカオルは堂島君を知り、生徒会長選での堂島君の演説にピンときて興味を持ち、生徒会とバスケ部を掛け持ちする事を決めます。

カオルは生徒会役員の顔合わせの際に自己紹介での「あたしの事はカオルって呼んで下さい!」宣言からの、初日から堂島君の事を「卓さん」と呼び(というか、全員名前呼びが基本だと考えている子で、侑にもグイグイ行く様子を目にした燈子がモヤモヤするエピソードが見えます)、「それはさすがにちょっと…」と侑か槙君にやんわりと窘められて「卓先輩」と呼ぶのに落ち着く感じの踏み込みの良さです。

堂島君とはノリが良い者同士でウマが合い、堂島君としては「賑やかな妹が一人増えたみたいだな」くらいの感じですが、二人はどんどん距離を縮めます。

堂島君がカオルを呼び捨てにする度に、朱里の心はちくりと痛む訳です。

「堂島君がわたし(朱里が乙女モードの時の一人称は『あたし』ではなく、『わたし』になって欲しい)を呼び捨てしてくれる様になるまで、少しかかったのに…」みたいな。

 

そして体育祭。部活対抗リレーで、カオルはアンカーを志願します。

生徒会のメンバーの中でカオルが一番俊足で、まぁ年齢順に走らなければいけないルールも無いし、という事でカオルはアンカーに決定。

朱里との直接対決です。

堂島君からバトンを受け取ったカオルは、やや先行していた朱里を抜き去り、見事一位でゴール(シナリオと絵面の為に、一位の本命の陸上部には途中でバトンミスがあった、とかにでもしましょう)。

これには、侑へのボディータッチの多さや馴れ馴れしさからカオルを少し警戒していた燈子もご満悦でしょう。

 

「リレーは生徒会の勝ちだね?芹澤?」

「ぐっ…まぁ、勝ったのはあくまで『バスケ部のカオル』のおかげだけどね…」

 「むっ…でも、『生徒会役員』としてリレーは走ってるもんね!」

 

みたいな芹澤との軽いケンカコントもあるでしょう。そして、沙弥香はため息のひとつでもつく事でしょう。

そして、カオルは堂島君をはじめ、生徒会メンバーみんなと抱き合って喜びます。

朱里(と燈子)は内心穏やかではありませんが、健闘を称えようとカオルに声をかけます。そして、

 

「あたし、絶対に朱里『さん』には負けたくなかったんです」

「えっ?」

「…これからもガンガンいきますから」

 

とカオルが朱里に宣戦布告をして体育祭は終了、嵐の三角関係編のスタートです。

この先しばらく槙君は含み笑いが止まらない事でしょう。

 

ここからカオルが堂島君に告白するまで(本命はクリスマス、引っ張ってもバレンタインですかね?)、実に色々なエピソードがありそうです。

ぱっと思い浮かぶのは、

・生徒会劇の練習中に堂島君とカオルがふざけて、あわやキスする寸前までいく

・堂島君と朱里がまだ友達以上恋人未満の状態で、初めて二人だけでどこかに遊びに行く

・生徒会と掛け持ちしているにも関わらず、カオルが一年で唯一レギュラーに抜擢され、バスケ部内で少し微妙な立ち位置になるも、朱里はふとした時にカオルが見えない所で努力している場面を見ていたので全力で庇い、みんながカオルを認める

・修学旅行でカオルにお土産(ご当地メンダコストラップとかだと、侑と気が合うきっかけになる)を買う堂島君に嫉妬して、些細な口喧嘩から険悪になる

・バスケ部の練習中に、(カオルが責任を感じてしまう何かのある)不運な事故で朱里がケガ(手か足の比較的治り易い骨折とか?)をして入院。朱里はケガ自体の事もともかく、こうしている間にも堂島君とカオルが仲を深めてしまうのではないか、と沈む。しかし、カオルは「あたしが原因だし、フェアじゃないんで」と、意識的に堂島君と一緒にお見舞いに来たりはせず、朱里のギプスが取れるまでは堂島君には極力近寄らずに、朱里の身の回りの世話を買って出て、部活では朱里の代わりに部内を見事にまとめる

 

などなど。

どこまでもフェアな三角関係を繰り広げて欲しいものです。 

 

そして、カオルは堂島君に告白をします。が、堂島君はこれを断ります。

 

修学旅行での燈子と沙弥香のそれと重なりますが、『好き』の重さを実感して、「自分が好きなのは朱里だ」という事を確認するステップを踏み、そして、「悩んだ末に相手を振る」という事を堂島君にも経験させたいんです。

 

ここで余談です。

このあたりで、堂島君の家に来ていたハルカが、

「おチビだった卓が、もう立派に恋愛で悩むお年頃かぁ。時間が経つのは早いもんでさぁねぇ…」

みたいな感じで、実は堂島君の好意に気付いていた事を打ち明けたり、アドバイスをする一幕が入るとちょっと良さそうです。

 

話を戻します。

ただ、この告白イベントが終わってしまうと、もう堂島君が朱里に告白するのは時間の問題になってしまう訳です。それこそ燈子なんて、沙弥香から告白を受けた修学旅行から帰ったその足で、生徒会室に侑を呼び出して告白している訳ですし。

高校三年生の間じゅうずっとここから関係を進展させないのは、あまりにも難易度が高いです。

ですが、私にはどうしても卒業式でやりたい事があるんです。

 

式で朱里をはじめとした先輩達への感謝と、堂島君だけにそれとなく伝わる、最後の背中の一押しをするエールを込めた送辞を読むのが生徒会長兼バスケ部部長のカオルで、答辞が堂島君。

 

これです。

そして最後の余談ですが、カオルはこの頃には堂島会長体制時の五人目の生徒会役員(このタイミングでいう副会長。おそらくはもの凄く落ち着き払って器の大きい、とても高校生とは思えない人格者。お寺の住職の息子とか。文化祭に遊びに来た堂島君の妹が一目惚れしたりなんかして)と、かなり良い感じになっていると思います。

 

そして、この後にクライマックスの堂島君から朱里への告白シーンが来るわけです。 

 

二人にとっての思い出の場所は…やっぱり泣いている朱里を慰めた体育館裏だか教室裏ですかね?

これはもうとにかくど真ん中に、ストレートにズバッ!!と決めて欲しいものです。

 

ここで白状しますと、本来私は沙弥香が刺さって『やが君』の沼に入ったクチで、堂島君と朱里については「良い二人だなー」位にしか思っていませんでした。

が、さすがにこれだけ色々と考えてごちゃごちゃと書いてきてしまったらさすがに思い入れが強くなってしまったので、クライマックスシーンを確定させるのが怖いというか、ひと区切りをつけてしまうのがとても惜しくなり、これ以上詳細に書く事は今は出来そうにありません。

どうかご容赦願います。

そして、この妄想を結実させる為には、堂島君と朱里が高校三年生の間をどう過ごすのかをまるまる考えなくてはいけませんが、今回はこのあたりが限界です本当に申し訳ありません。

 

さんざん長々と書いてきた結果、中途半端に終わってしまって大変心苦しいですが、これを読んでもし「自分なりの堂島君と朱里」について考える人や、様々な切り口で『やが君』ついて掘り下げたり、『やが君』への愛を形にしようとする人が一人でも増えるなら、これより嬉しい事はありません。

 『やが君』は、サブキャラ一人に関してですらここまで書いてしまいたくなる様な、とても面白い、懐の深い、語りたくなる、挙句の果てには二次創作をしたくなる素晴らしい作品です。

舞台『やがて君になる』encore公演アニメの2期を待ちわびながら、『やが君』を楽しみ尽くしましょう。

という訳で、まずは私以外の方達が書いた、やが君アドベントカレンダーの記事をぜひお楽しみ下さい。どなたも猛者ばかりで、様々な形の『やが君』への愛が込められた、とても素晴らしい企画です。

この企画に参加出来た事に、改めて感謝します。

 

最後に、ここまで読んでいただいた方、本当にお疲れ様でした。

そして、ありがとうございました。